スカジャン絵師 横地広海知さんインタビュー!横須賀ドブ板通りで枠組みも世代も超えて繋いでいく

横須賀を中心に活躍するスカジャン絵師・横地広海知さんのスカジャン。背中側の龍と鷲の柄

まずは自分が「ドブ板通りの人間」になること – そして「スカジャンの研究」へ

テーラー東洋 「JAPAN JACKET BOOK」

横地さん:「どうやったら横須賀でスカジャンを作れるだろう?」と考えた時に「ドブ板にオフィスを構えよう。むしろ構えるしかない!」と決めたんです。最低限それをやっていないと、モグリだと思われますから。

ドブ板にオフィスを構えるところから私のスカジャン作りは始まったんです。

横須賀に住んだ最初のころはスカジャンを作れるアテはなかったんです。横須賀の人と積極的に関わりを持ちだしてからも、スカジャンをどうやって作ればいいのかは、なかなかわからなかった。

ドブ板通りにはいっぱいスカジャンを取り扱っている店舗があるけれど、店舗さんがどうやってスカジャンを作っているのは全部隠されていました。ならばそこからは自らで「スカジャンの研究」開始ですよね。

テーラー東洋 「JAPAN JACKET BOOK」

横須賀やドブ板通りとスカジャンの昔の写真、資料、Twitter、復元写真などを集めて研究し、「この場所にはこんなお店があったのか…。これがこうなっていたんだな…。」と知識を増やしながら、様々な角度と視点で推測していきました。

そうやって研究することで、自分自身がスカジャンを知っている状態になっていく。

私の師匠であり、ドブ板の兄貴的な存在の方がいるんですが、その人とスカジャンについて話をする時に「これはこうやって作っていますよね?」、「それってこうなってるんですよね?」という話をこっちからしました。

こちらが既にスカジャンについて知っている状態で、ドブ板の人たちと喋っていく。そうすると次の話が自然と出てくるんです。全て知ろうとして努力している、愛情を持っている、ということを伝えれば、どんどん教えてくれるんですよね。

逆にそうでなければ絶対に教えてくれません。そんな昔の徒弟制度のような雰囲気が横須賀にあるんですよね。歴史、知識を知っているのは人なので、そこはやっぱり人と関わって情報を引き出すしかありません。

そうなるまではお店から情報を教えてくれることなどはなかったんですか?

横地さん:実は最初の頃はドブ板通りのスカジャンのお店には入れなかったんです。だって、みんなすごく怖かったんですもん(笑)今となっては私も含めてですが、ドブ板通りの人はみんな基本的に目つきが悪いので怖かったんですよ(笑)

一見さんお断りな雰囲気もあったので、お店の人が店の前で立ち話をしていても、なかなかこっちからは入りづらいし、話しかけづらいですよね。

そうすると、自分が「よそ者」、「外部の人間」ではなくドブ板の人間になっていくしかないんですよ。イコールそれは自分も見た目が怖くなっていくことでもあると思うんですが(笑)

そうやってドブ板の古参メンバーの方たちと関わりを持ちながら、自分が「ドブ板の人間」として関係性を深めていく。そうするとそれまでは怖くて入店することもできなかった店の店主たちと立ち話をしたり、ご飯を食べにいくまでの仲になりました。

横地さん:横須賀が閉鎖的な街であるとお話ししましたが、それは一種の誇りの表れでもあると考えています。こんなこと言ったら怒られるかもしれないんですけど、横須賀の人は外部から人が来た時に「あの人誰だろうな?」じゃなくて「あいつ誰だよ」と思うんですよね(笑)

そこには、コミュニティを守るという意識が根底にあると思うんです。

横須賀は昔からすごい人の入れ替わりが激しい街でした。特に体の大きな外国人がどんどん入ってくる街でもあります。体の小さい日本人たちがコミュニティを守ろうとするとき、すごく「閉じて」ないと生き残れなかったし、守れなかったんだろうなと思います。

「閉じる」ことで自分たちを守ってきたんですね。だから目つき悪くて怖いんでしょうね。今でも時々目つきが悪すぎて、殺気に満ちているんじゃないかと感じる時すらありますよ(笑)

ドブ板通りの大切なルール – 「筋を通す」ことと「仁義を大切」に

横地さん:ドブ板には大事なルールがあって、それは「筋を通す」ということ、と私たちは呼んでいます。例えば、私がドブ板で何か新しいことを思いついたとすると、まずは兄貴分に必ず「こういうことをやろうと思うんですが、どうでしょうか?」と話します。

そうすると最初は「それはどういうことだ?」みたいなちょっと怒ってるのかな?という雰囲気になるんですね。なんでそうなるかというと「そんなことを勝手に始めようとしてるのか?」というような態度なんです。

でも「相談した方がいいと思ったので、一番に相談しています!」とこちらも熱意を込めて話すと、納得してくれるんです。しっかりと聞こうとしてくれるんです。何か新しいことを始めるにしても、このまず「誰に話すのか?誰に相談するのか?」ということがドブ板ではすごく大事なんです。

特に外部の人がドブ板で何かするときに、私からしたら「あの人にそんな順番で話したら、絶対に怒られるぞ…」みたいなことがあるんです。外部の人に「それだと仁義が通らないから絶対にやめなよ」と言いますが、なかなか理解してもらえないんです。

昭和というか、高倉健を観ていないとわからない世界なのかもしれません(笑)

私はたまたま「昭和残俠伝」(高倉健主演)という東映のヤクザ映画シリーズを好きでよく観ていました。闇市の中で愚連隊が自分たちのルールで正義を貫く、そんな世界観が小学生ぐらいから好きでした。

私はそういうドブ板のルールと世界観を察して、早い段階からしっかりと理解しようと実践したので、追い出されなかったんだと思っています。

だからか、横須賀の「仁義はこう通す」ということを良く理解できましたし、自分に合っていて、馴染みもよかったです。それにそういう、古いものを知っているのはいろんな人に喜ばれますね。

ドブ板通りの懐の深さと温かさ

横地さん:例えばドラマ「傷だらけの天使」で水谷豊さんがスカジャンを着用しているシーンがあるんです。「水谷豊さんと言ったら、やっぱり探偵物語の『夜汽車できたあいつ』で着てた衣装のスカジャンたまんないですよね!」なんて話を50歳を超えたベテラン世代と私が和気藹々(わきあいあい)と話したんですよ。

「傷だらけの天使」第13話出演の水谷豊さんが着ていたコマの柄が入った赤いスカジャン
(イメージ画像「傷だらけの天使」第13話出演の水谷豊さん)

すると向こうも「あれ最高だよね!」となって意気投合してからは、スカジャンのことからなんでもどんどん教えてもらえるようになりました。昭和のプロレスがわかっているとか、そういう世代を超えた共通の話題があると心を開いてくれるきっかけになりますよね。

他の場所と違って、横須賀にはどこか懐かしい「時計が止まっている街」そんな雰囲気がある気がすると言いましたが、横須賀を気に入って、外から入って来る人たちには共通して、そういう雰囲気がグッとくるからなのではないでしょうか。

これまで自分の人生でこれほどまでに地域のコミュニティと深く関わったことはありませんでした。ドブ板通りは一見排他的に見えて、本当に街のためを考えていると認めてくれると、新しいことに挑戦する人を快く迎え入れて応援してくれる街なんです。

最初は怖くて店に入ることすらできなかった私ですが、今ではこのドブ板の懐の深さ、大きな温かみを感じています。

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