国産ホップで作る正真正銘国産ビール~岩手県遠野市~

樽の上にジョッキに入ったビールとホップと麦が飾ってある写真
参照:ODAN

遠野のホップを再び日本一に 国産ビールに秘めた想い

今回はビールの要「ホップ」の生産量日本一の岩手県遠野市をクローズアップ。

国産ホップの魅力を皆さんも一緒に味わってみませんか。

試行錯誤を繰り返しながらホップの生産量日本一まで登り詰めた遠野市

広大な大地と青空の下、山々が後ろに取り囲む中に黄金色に輝くキンキンに冷えたグラスビール
参照:ODAN

柳田國男の「遠野物語」で知られ、「永遠の日本のふるさと」という異名を持つ、古き良き時代の趣が残る遠野市。その遠野市で、50年以上作り続けられているものがあります。

仕事終わりに、グビッと一杯飲み干したい!そんなビールづくりに欠かせない「ホップ」です。

ホップは、アサ科のつる性多年草植物で、ビール特有の苦みと香りをもたらすだけでなく、泡を安定させ、殺菌効果があり、保存性を高める大きな役割を果たしています。

木枠の窓辺に緑の美しいホップがたくさんなっている
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世界のホップ生産の中心は欧州と北米で、日本の国産ホップは全体の0.2%とも言われています。

そんな希少価値のある国産ホップで全国1位の生産量を占めているのは岩手県であり、その中でも遠野市は全国生産量の6分の1を占め、日本随一の生産面積を誇っています。

ホップづくりには寒暖差が激しい場所が適しているため国内で栽培できる場所は限られている中、遠野市の気候はホップづくりにはぴったりでした。

背の高いホップの木が青空の下たくさん植えてある様子
参照:ODAN

遠野でのホップづくりは遡ること50年以上前。

冷害で立ち行かなくなった高原野菜農家が、キリンビールと栽培契約を結んだことでスタートしました。

試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ栽培面積も増え、1970年代後半から80年代には生産農家が230戸を超えました。

112ヘクタールにまで拡大した栽培面積はいつしか日本一となり、1987年には全国生産量1位に輝くまでに発展を遂げたのです。

品質が良く華やかな香りが特徴の遠野ホップはメイドインジャパンのビールには欠かせない存在となり、遠野市はホップ生産の最盛期を迎えました。

深刻化するビール離れと後継者不足

ジョッキに入ったビールを持ったたくさんの手。高く上げて乾杯している様子。
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しかし、近年ビール業界はかなり厳しい状況に置かれており、ホップの生産地遠野にも大きな影響を及ぼしています。

「とりあえず生で!」という飲み会での一言は今の若者たちには通じなくなりつつあるのです。若者のビール離れには、様々な要因が挙げられます。

スマホ画面にフェイスブックやスナップチャット、インスタ、ツイッターのアプリが入っている画面
参照:ODAN

まず、SNSの普及により直接的な人間関係が希薄になりつつあることで、飲み会自体が減ってきていることが考えられます。

お酒を飲む機会を推奨するわけではありませんが、一緒においしいお酒を飲むことでより近しい関係になれるのも人間関係づくりの醍醐味のように感じるので、個人的にはこの現状は寂しくも感じます。

ピンクやオレンジや黄色などカラフルなカクテルを手に持ち乾杯している様子
参照:ODAN

このように飲み会文化が減っている上に、苦いビールが飲みづらいという人も昨今では増え、飲みやすいカクテルやチューハイの種類が昔に比べて豊富になったこともビールが売れない一つの理由だそうです。

実際統計ではビールは飲まないが、ハイボールやカクテル、チューハイなら飲むという若者も多いという結果が出ています。

いずれにせよ、お酒に対する価値観が昔に比べて大きく変化していることは確かな事実です。

遠野市の様子。水辺に藁ぶき屋根の建物が立っている。青空と緑の山々。
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)遠野市

このような背景にビール業界が苦戦する中、遠野の生産量もピーク時の4分の1になり、農家数も34戸にまで減少しました。

さらに遠野がもう一つ抱えていた深刻な問題は、生産者の高齢化と後継者がいないという現状です。

緑の生い茂る景色を見ながらバルコニーの柵に手をかけて考え込んでいる様子
参照:ODAN

ビールの生産が減少している上に、他地域に生産量トップを奪われてしまった遠野で、ホップの栽培を軸に生計を立てていくことはかなり厳しいことでした。

東日本大震災後、さらなる窮地に立たされた生産農家の人々は「今の代で廃業したい」という本音も漏らすほど苦悩していました。

「ホップの里からビールの里へ」

樽の上にジョッキに入ったビールとホップと麦が飾ってある写真
参照:ODAN

ホップも国産のものを使用した正真正銘ジャパンクオリティビールが飲めなくなるかもしれない... ビール愛好者たちも嘆く遠野の危機。

この絶望的な遠野を救ったのは、人々のアイデアの数々でした。

ホップの里として栄えた遠野をビールの里として盛り上げようというビッグプロジェクトが大手ビールメーカーキリンの支援を受け、官民連携で始動したのです。

白い背景にスーツの手が伸びていて、土と苗を差し出している写真
参照:ODAN

まず、遠野産ホップの生産拡大と高度化を目指しました。

具体的には活用されず放置されている農地を新規就農希望者に提供することで、農業に興味のある人が挑戦してみようとするハードルが下がり、耕作地の減少が食い止められたのです。

パドロンと呼ばれる緑色の唐辛子のようなスペインの野菜
参照:ODAN

さらにパドロンと呼ばれる唐辛子の1種で、スペインでは日本の枝豆のようにポピュラーなおつまみになる野菜を「遠野パドロン」として栽培し売り出していくことで、収益を伸ばしていく策も新たに取り入れました。

原産地であるスペインのパドロン地方に比べて、遠野は暑く、始めは順調に栽培するのもかなりの苦労でしたが、今では遠野市の定番おつまみメニューとして定着しつつあり、パドロンを使った加工食品も販売されています。

緑に白い柄のマイクロバスが、緑の森の中を走っている様子。
参照:ODAN

このようにして復興を成し遂げた遠野は、意欲的に「ビアツーリズム」を行い、国内外から大勢の観光客を受け入れています。

このツアーではホップ畑を眺めながら遠野ホップで作られたビールを飲んだり、実際にホップの収穫体験ができたりなど他では味わえない心弾む企画が盛りだくさんです。

このツアーを通して、ビール好きな人々が国産ホップの魅力を深く知り、さらにビールを楽しんでもらうということが目的の一つでもあります。

ホップの束をしっかりと持つ農家の人たちの手
参照:ODAN

そして今、遠野を盛り上げようと全国各地からホップの生産に興味を持った人が移住し、市民全体でビールの里を支えています。

人々の努力が実り、年に一度8月に行われる収穫祭は年々話題を呼んでいます。

遠野はホップの里からビールの里に進化しながら、活気を取り戻してきたのです。

旬のホップが香る遠野に足を運んでジャパンクオリティなのどごしを体感したいですね。

ホップはこんなにもすごかった!!

国産ホップとは…そもそも輸入ホップと何が違うのか?

国産ホップの特徴をいくつか見ていきましょう。

香りを思いっきり楽しめる国産ホップの特徴

青空にしっかりと育つ美しい緑のホップ
参照:ODAN

まず、ホップを栽培している国内の農家は海外に比べて小規模なため生産者の目がきちんと行き届いており、丁寧な栽培が維持されていることが挙げられます。

さらには、よっぽど激しい気候の変動さえなければ品質が安定し、奥深い華やかな香りのホップを栽培することができるという点も日本の気候特有です。

紫の花や赤い実や緑の美しいハーブが入ったボールの中に一緒に入っているホップ
参照:ODAN

そして最後に、毎年少しずつ香りが変化するホップは輸入のものであると大抵は輸送の為に乾燥させたり粉末状にするためどうしてもフレッシュな香りが抜けてしまいますが、国産のものであれば新鮮さを保ったままホップそのものの香りを思いっきり楽しむことができるのです。

様々な良い効果をもらたすホップ

水辺に夕日が沈んでいく様子。サーモンピンク色のきれいな夕日。
参照:ODAN

ホップと聞くとビールというイメージが強いですが、ヨーロッパではハーブの一種として民間薬にも用いられています。

不眠症の改善やアレルギー症状の緩和、イライラや不安の鎮静化を含むリラックス効果もあると言われています。

ハーブティーが入ったカップとピッチャー。紫の花が一つ飾られているカフェのテーブル。
参照:ODAN

またホップの苦み成分の一つである、イソα酸は肥満の抑制・血中中性脂肪濃度を下げる効果があり、さらには肥満による脳の炎症や海馬の萎縮を抑える効果も含まれています。

近年の研究では、アルツハイマー型認知症の予防効果も認められています。

ホップの可能性は計り知れず、今後の研究に期待は高まるばかりです。

国産ビールの魅力

国産ホップを使った正真正銘国産ビールの魅力をたっぷりと味わっちゃいましょう。

国産ホップを食べ飲みセットで堪能

SPRING VALLEY BREWERYの飲み比べセット。代官山にあるクラフトビールのお店。色とりどりのクラフトビールにマリアージュするおつまみたち。
筆者撮影 @SPRING VALLEY BREWERY

ビール離れと言われながらも、最近ではおしゃれなクラフトビールが増え、ビールを好んで飲む女性も増えてきたように思います。

そんなクラフトビールブームの中、先日代官山にあるSPRING VALLEY BREWERYさんに国産ホップを使ったメイドインジャパンビールを味わいたくお邪魔してきました。

こちらでは貴重な国産ホップのビールを楽しむことが出来るだけでなく、飲み比べセットを頼むと各ビールに合わせたおつまみがでてくるという粋なメニューがあります。

個性豊かなジャパンクオリティビールも国産ホップの魅力を知ってから飲むとまた一味違った美味しさを感じられます。

ウッド調のおしゃれなバーカウンターにグラスビールが1杯飾られている様子。
参照:ODAN

更に国産ホップをお家で味わいたい!という人におすすめなのが、遠野のとれたてホップを使用したキリンビールが毎年数量限定で販売している、その名も「一番搾りとれたてホップ生ビール」です。

爽やかなグリーンのパッケージの限定販売ビールはホップ収穫後の秋に毎年発売されています。

お店で見かけたら必ず購入するのですが、気付いたころには売り切れていることも多いので幻のビールと言っても過言ではないでしょう。

まさにとれたてのコクと香りをぜひ堪能してみてください。

ビールをもっとおいしく 簡単おつまみずぼら飯

瓶ビールをグラス移注いでいる写真。手前が注がれていて、奥はすでに注がれた泡がおいしそうなビールが映っている。
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

お酒のお供なしでお酒を嗜む人もたくさんいるとは思いますが、筆者はお酒に合うおかずの組み合わせも含めて楽しみたいというのが本音です。

「ペアリング」という言葉が巷では流行っていますが、家で作るおかずはそんなおしゃれな物ではけしてありません。

金髪の女性がキッチンに向かい調理しようとしている後ろ姿。棚にはブルーのおしゃれなホーロー鍋が置かれている。
参照:ODAN

それでも国産ホップが生み出す華やかですっきりとした味わいのビールに合うものを食べたい!そして仕事終わりに15分くらいで誰でもできてしまうそんな簡単なものを作りたい!と思い、筆者が実際に作ったおかずをここでは紹介させていただきます。

外で飲むのもいいですが、宅飲みでしっぽり、自分の食べたいものと飲みたいものだけで過ごすのも幸せですよね。

市販の焼きそばで超簡単屋台風塩焼きそば

ビールに合うおかず塩焼きそばの写真。温玉が乗っていて、ネギが全体に散らされている。
筆者撮影

材料
市販の焼きそば(塩味)、冷蔵庫の残り野菜、豚バラ肉、柚子胡椒(あれば)、ごま油、塩コショウ

作り方
①冷蔵庫のあまり野菜をざく切りにし、ごま油大さじ1と豚バラ肉、塩コショウ少々を加え豚肉に火が通るまで炒める。
②焼きそばを投入し、大さじ1の水を4,5回麺に回しかけながら、麺をほぐす。
③市販の焼きそばについてきた塩焼きそばのソースを全体にかけながらとにかく混ぜる。
④お皿に盛ってお好みで温玉やネギ、柚子胡椒をトッピングして完成。

ビール何杯でもいけちゃう適当ゴーヤチャンプルー

藍色のレンコン模様のお皿にたっぷり盛られたゴーヤチャンプル
筆者撮影

材料
ゴーヤ1本、木綿豆腐、めんつゆ、卵1個、豚肉、ごま油、塩コショウ、砂糖、醤油

作り方
①ゴーヤは縦に半分に切り、中の綿と種をスプーンでこそげ取り、5㎜幅に切る。
②塩水に切ったゴーヤを付けておく。(つけ時間よって苦みの取れ方が違うので程よい感じがいい場合は10分から15分)
③豚肉は適当な大きさに切り、豆腐は水気をきっておく。
④ごま油を敷いたフライパンに豚肉を炒め、水気をよく絞ったゴーヤを投入して炒める。
⑤更に豆腐を加え、うまく崩しながら炒める(豆腐は切ってからでもよいが、適当にほぐした方が味が染みやすい)
⑥塩コショウを適量、麺つゆ適量を回しかけ、お砂糖を一つまみ加えて、醤油で味を調える。
⑦水分が飛んで来たら、溶いた卵を全体にかけさっと炒めて、お皿に盛って完成。

ジャパンクオリティに触れる

おしゃれなウッドカウンターにグラスに注がれたクラフトビールが置いてある。
参照:ODAN

国産ホップを使ったビールの魅力についてお話してきましたが、最後に遠野市を訪れる際に、遠野のホップを使ったビールを購入できる2つ場所をご紹介します。

ジャパンクオリティが凝縮されたビール片手に、遠野のサクセスストーリーに思いを馳せながら、ぜひ至福の1杯をお楽しみください。

公式WEB:上閉伊酒造
寛政元年から続く老舗の酒造で作る清酒仕込みと同じ超軟水で仕込まれた、まろやかでコクのある角がない旨さのオリジナルビールを堪能できます。

住所:岩手県遠野市青笹町糠前31-19-7
TEL:0198-62-2002

公式WEB:遠野醸造TAPROOM
クラウドファンディングで資金を集め、クラフトビールを愛する人たちが2018年にオープンしたビアレストラン。遠野のホップを使用したビールをおしゃれな雰囲気で楽しめます!

住所 :岩手県遠野市中央通り10-15
TEL :0198-66-3990
定休日:火曜日

執筆:Honami

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