横須賀スカジャンの可能性は無限大!「柄は魔法。柄を身に纏う。」スカジャン絵師 横地広海知さんに聞く

世界、日本中で愛されてきた「スカジャンの派手さ」とそこに込められた意味

スカジャン絵師・横地広海知さんのスカジャンコレクション

横地さん:「スカジャンてすごい派手ですよね。」ってよく言われるんですが、そもそも日本では派手なものが好まれてきた歴史があります。

歌舞伎もまさにそうですし、日本画などにも元々は家紋に使われていた龍の柄などが布にあしらわれていたりします。江戸時代の市民たちが安定して、一番力を持っていた時代には、自分で好きな柄を入れた着物を纏っていたころがあります。

「派手である」ということもそうなんですが、そもそも人類は柄が好きなんですよ。柄に意味や思いが込められるので楽しめる。ミクロネシアなどをはじめ、世界のタトゥー文化の歴史にも通じる部分ですね。

逆に派手さ、柄が弱まる時期というのもあって、それは不安定な、戦争の時期なんですよ。みんなが慎ましくなければいけないし、そもそも目立つと狙われてしまいます。

もともと素地として柄のカルチャーがあるから、戦争が終わり、安定化しはじめると、戦争によって抑え込まれていたものが、一気に花開きはじめるんです。日本のお土産の文化と歴史がまさにそうです。

そういった伝統やルーツを持つ柄をスカジャンに取り入れている部分があります。

派手だねとよく言われるけど、人類は元々派手なものを好んでいて、時代に応じて無くなってしまうこともある。スカジャンにはその派手さ、柄が当時のまま残っているということなんです。

戦争、時代背景や当時の文化によって抑圧されて薄まっていたけど、元々は人類はみんな「柄」が好きな訳です。

それはブームとは違うもっとロングスパンで見た時に、「派手さが出てくる時期」と「派手さが弱まる時期」があって、今はそれが弱まっている時期です。

それにはカウンターカルチャーの要素もあると思っていて、中央ではなく市民が力を持つと歌舞伎のようなものが出てきて派手好みになっていく。そういったところもあって、柄とは何かを研究していますね。

そうすれば、スカジャンの柄を手書きで書いたとしても、「私はスカジャンの伝統を引き継いでいます」と言えると思います。私は職人でもないですが、伝統を守りたいと考えています。スカジャンの伝統を守りたいからには、私が一番その伝統を尊重しなければならないです。

かつてスカジャンを作っていた人たちが意識していなかったところまで意識する、昔何があったか、いったい何を引き継いできたのか、そういったところまで想いを巡らせることができて初めて、正当にスカジャンの伝統を後継していることになるだろうなと考えています。

スカジャンだけではなくて文化や歴史を紡いでいく

横地さん:文楽とかの人形でもスカジャンのような柄を着ている場合もあります。あれは衣装なのでもっと装飾が派手になるんですよね。それもスカジャンじゃんと思う時もあるんですよ。

スカジャンの龍にある炎は翼を表していて、位が上であることを示しています。使っていい指の数も龍によって決まっていたりします。それをちゃんと理解して描いている方が想いが強くなります。考え抜いた上で、全部を知った上で、フッと力を抜いた瞬間に本物が出てくる時があるんです。

私なんかはまだその感覚になかなかなれないのですが、なんでもそうなんじゃないですかね。本当の名人ってフッと力を抜くことができて、神懸かり的なことができたりする。

そこを目指すためにガチガチに練習し続けて、脱力する瞬間に新しいものやオリジナリティが生まれるんだろうなと思っています。

こういう雰囲気であればスカジャンぽく見えるというのは深く知らなくても作れちゃうし、出せると思うんですけど、それではコピーの域を脱却出来ないです。

まだそこまでは全然たどり着いていないですが、勉強するしかないなと。誰よりもスカジャンについて考えて、誰よりも柄を見ていますよと言えれば、今はひとまずいいのかなと思います。

「スカジャンはワルのアイテム」なイメージはどこから? 映画とスカジャン

「豚と軍艦」
1961年公開された今村昌平監督の日活映画。ドブ板通り、安浦、臨海公園など横須賀市がロケ地。

横地さん:スカジャンはちょっと不良のアイテムのようなイメージが一般的にはあると思うんですが、なぜそうなったかというと、そこには日本の映画などの映像作品が大きく関わっています。

「豚と軍艦」がスカジャンが一番最初に出てきた日本の映画作品だと言われています。貧しい中で米兵を相手に生きていくんだという女性の話で、海外でも高く評価されている作品です。大きなものに逆らうという意味でかっこいい映画なんですけれど、ちょっと暗いテーマなので、憧れにはならないような気がしています。

「新・悪名」
1962年公開の大映映画。「悪名」シリーズの第三作。監督は森一生。勝新太郎と田宮二郎出演作品。

その翌年に出た映画「新・悪名」があります。この映画に出てくるキャラクターがスカジャンを着ているんです。田宮二郎さんがえげつなくかっこいいんですよね。不良だけど筋は通すという。

私の説ではこれに当時の人たちが憧れたんだと思います。そこから「不良と言ったらスカジャン」という流れになったのではないかなと。

その後「傷だらけの天使」でスカジャンのイメージが定番化したんだと思います。それからは刑事もの、学園ものの作品などでも、スカジャンがよく着られるようになりました。

横須賀の人が「スカジャンと言ったら不良」というイメージを払拭したいというんですが、でもこれを好んで着る人は、ちょっと真面目ではない人なんじゃないかなと思います。(笑)。

「歌舞伎たい!かっこよくいたい!」という思いがあり、尖っていると思われたいからスカジャンを着ているという面もありますよね。

「問答無用に一番かっこいい服」だからスカジャンを愛している

横地さん:とにかく「問答無用で一番かっこいいからスカジャンを作っている。かっこいいから着ているんだ。」というところを目指していきたいですね。

誰もが着られる服より、着る人を選ぶ「私にしか似合わない!」という気合が入った人が着る、尖ったかっこいいファッション、そういったスカジャンを作っていきたいです。

それこそ「還暦スカジャン」を作った時には、自分でモデルを見つけてきて、この人しかいない!となんども連絡して口説き落としてやってもらいました。

ヴェルニー公園で撮った写真がその後テレビ局関係者の目に留まって、別のファッションショーでもモデルで出演するという話にも繋がったんですよ。

そういう力もあるんだなと実感しましたね。本当に魔法に近いですよね。

「スカジャンにそんなに興味がなかったけど、着てみたら妙に好きになってしまった。」というパターンもあると思います。スカジャンは想像しているよりも、着てみるとまた全然違う印象になります。

あとは横須賀ではスカジャン着ていると地元の人からも喜ばれます。私は横須賀市長に会いにいく時もスカジャン着ていきますからね。それで「正装だね。」と言われる街は他にないと思います。

横須賀観光でスカジャンを着ている人はいますけど、日常でスカジャンを毎日着ている人は私ぐらいなんじゃないでしょうか(笑)。

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