韓国出身のアーティスト、ジア・ヒョク(Jeah Hyuck)の個展「念想」が、2026年6月13日(土)から7月4日(土)まで、東京・原宿のSH GALLERYにて開催されます。
本展は、作家にとって日本初の個展となります。韓紙・墨・漆・石彩といった韓国の伝統素材を用い、文字の反復的な記録行為によって感情・記憶・思考の痕跡を画面上に構築する連作〈念想〉シリーズの拡張を中心に構成されています。

ジア・ヒョクは1997年生まれの若手作家です。ロンドン大学ゴールドスミス校(Goldsmiths, University of London)でファインアートを専攻し、最高評価にあたるFirst Class Honoursで卒業しました。同校はダミアン・ハーストやサラ・ルーカスらを輩出したYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の拠点として知られ、現代美術における批評的思考と実践の場として国際的に高い評価を受けています。西洋現代美術の文脈を深く学んだ作家が、韓紙・墨・玉粉・漆という韓国の伝統素材を選び、日本で初の個展を開くという背景は、作品を見るひとつの手がかりになるかもしれません。

連作〈念想〉において、ヒョクは日常の中で通り過ぎていく感情、記憶、思考の断片を、文字として画面上に反復的に書き重ねていきます。この手法を前にして、編集部にはいくつかの美術史的な文脈が想起されました。
ひとつはシュルレアリスムの「オートマティスム(自動記述)」です。意識的な制御を抑え、内面から湧き出す言葉をそのまま画面へと書き連ねていく行為。その延長線上には、絵具を叩きつける身体の運動そのものを作品化したジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングもあります。書く・描くという行為のなかに思考や感情の流れをそのまま定着させる態度は、20世紀美術がくり返し向き合ってきた主題でもあります。
もうひとつは、1960〜70年代以降のコンセプチュアル・アート、そしてテキスト・アートの系譜です。言葉を読ませることで鑑賞者の頭の中にイメージを立ち上げたオノ・ヨーコ。壁面に言葉そのものを定着させたローレンス・ウィナー。アルファベットを画面いっぱいに配し、文字の「意味」と「形」の境界を揺らしたクリストファー・ウール。文字を読む対象から見る対象へと転じさせる試みは、こうした作家たちによっても探求されてきました。
視覚的な体験としては、また異なる連想も生まれます。遠くからは抽象的な風景に見え、近づくと無数の文字が立ち現れる——この二重性に、編集部はオーストラリア先住民のドット・ペインティングを思い起こしました。点や記号の集積によって大地や神話、記憶の地図を描き出すあの技法もまた、引きで見ると一枚の風景となり、寄ると粒の集合へと還元されます。あるいは、高密度に文字が敷き詰められた画面と、韓紙や石彩がもたらすざらついた質感。そこには、古代の碑文や石碑のような時間の厚みが宿っています。解読できるかどうかの境界に置かれた文字の連なりは、ロゼッタ・ストーンやヒエログリフを前にしたときの、あの畏れにも似た感覚を呼び覚ますかもしれません。

今回の展示は、作家ジア・ヒョクにとって日本で開催される初の個展であり、作家の代表的な連作〈念想〉シリーズの拡張を中心に構成されています。〈念想〉は、日常の中でふと通り過ぎていく感情や記憶、思考の断片を文字として繰り返し記録していく作品です。画面上の文字は、読むための言語であると同時に一つのイメージともなり、遠くから見ると抽象的な風景のように、近くで見ると個人の記憶を呼び起こす痕跡として立ち現れます。
本展で作家は、韓紙、漆、墨、玉粉、石彩といった韓国の伝統素材を用いながら、同時代の韓国美術における新たな可能性を提示しています。伝統を固定された形式としてではなく、現代の感覚の中で変化し続けるものとして捉え、文字の重なりや反復的な行為を通して、現代社会における個人の感情やアイデンティティを視覚化しています。
作品の中でそれぞれの記憶や感情を見出し、無数の言葉が織りなす新たな伝統と崇高の美学の中で、忘れていた感情を再び思い起こし、静かな慰めの時間を体験することができます。
アーティスト ステートメント
私たちは、情報や感情、言語が絶えず流れ込む現代社会の中で生きている。
個人はその流れの中で社会と関係を結び、ときに同化しながら、自らの気質やアイデンティティを絶えず形成し変化させていく。私はその過程で通り過ぎていく観念や記憶、感情の痕跡を観察者の視線で捉え、画面上に幾重にも積み重ねながら一つのイメージとして構築している。
私の作品において文字は、読むための言語であると同時にイメージでもある。
言葉は明確な物語から離れ、リズムや密度、残像として残り、作品は遠くから見ると抽象的な風景のように見え、近づくことで文字の痕跡が現れる。鑑賞者はその中で特定の言葉を見出した瞬間、自身の記憶や経験を介在させ、もう一人の観察者となる。作品はそのようにして、作家の記録を超え、それぞれの解釈が留まる開かれた場へと拡張されていく。
私はこのプロセスを通して、「変化する伝統性」を探求している。朝鮮時代の風俗画や風景画が当時の社会や自然を記録していたように、私は現代における目に見えない情報や感情、言語の流れを、文字の重なりという方法によって記録する。石彩、墨、韓紙、玉粉、漆といった伝統素材は、作品の中で現代的な感覚として再解釈され、社会の見えない構造を新たなリズムと生命力を持つ同時代の風景へと変換していく。それは、今日の社会や感情、言語の流れを記録する同時代的な風俗画であり、変化し続ける伝統性を探求する試みである。
アーティストプロフィール

Jeah Hyuck / ジア・ヒョク
ジア・ヒョクは、1997年生まれの若手アーティスト。
英国ロンドンの名門・ゴールドスミス大学でファインアートを専攻し、優秀な成績で卒業。現在はヨーロッパと韓国を拠点に、精力的な展示活動を行っている。
アイデンティティを主題とした作品では、木製の扉や韓紙、絵の具、墨など、東西の異素材を重ね合わせ、落書きのように重層的な視覚表現を通じて、社会的ペルソナと内面に潜む感情を描き出す。
パリ、ヴェネツィア、ロンドンなどで個展を開催し、とくにロンドンのSaatchi GalleryやSurface Galleryでの展示では、世界のコレクター達の注目を集めていた。















ジア・ヒョク 個展「念想」