「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」開催までの秘話 -インタビュー その1-

薄暗い室内には、畳の上に設置された和風の襖が並んでおり、それぞれに「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターが描かれたパネルが照らし出されています。奥の部屋には照明があり、展示物を鑑賞している人が二人見えます。会場全体は伝統的な日本家屋の雰囲気を持ち、天井は格子状のデザインになっています。

世界的に蔓延した新型コロナウイルスの影響で、多くの文化施設が活動を制限される中、比叡山延暦寺もその例外ではありませんでした(2020年4月現在)。しかし、そのような厳しい状況下でも開催された『ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展』は、来場者に多くの喜びと驚きを提供し、大成功を収めました。

Guidoor Media編集部では、この展覧会の企画・運営に携わった3名のキーパーソンに独占インタビューを行い、その内容を3回に分けてお届けします。今回は、まず企画の裏側や経緯についてご紹介します。

今出川 行戒さん
(天台宗総本山延暦寺 副執行 参拝部長
1967年生まれ。滋賀県大津市出身。「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」の企画者。重要文化財「釈迦堂」本尊特別ご開扉ならびに内陣特別拝観、国宝殿においての「至宝展」(比叡山の宝物展)などを開催。比叡山延暦寺1200年の教え、歴史、文化をふまえ、今の世に新たなカタチでその魅力等を発信している。

山田 晋也さん
(豊和堂株式会社代表取締役 アートディレクター兼絵師)
1974年生まれ。京都市出身。豊和堂は代々残る文献を基に織りや染めなどの染織技術に着眼し復元と創作を行い、和装メーカーとして着物、帯を製作している工房。2013年、細見美術館へ俵屋宗達「墨梅図」復元、収蔵。2015年の京都国際マンガミュージアム「琳派オマージュ展」、2017年から2018年の京都・新宿の高島屋で開催の「僕らが日本を継いで行く」展で、初音ミクや手塚治虫作品をモチーフにしたことで注目を集める。好きなものは、ヒップホップ、俵屋宗達、THE BLUE HEARTS。「生きている事を作業にしたくない。生きている感を感じ生き続けたい。」

村山 和正さん
(比叡山延暦寺「一隅を照らす運動50周年記念事業」 総合プロデューサー)
1978年生まれ。京都市出身。社家(代々神主の家)に生まれ、京都特有のしきたりや行事などに嫌気が差し高校は地方に進学。大学はUniversity of Hawaii at Manoaにて天体物理学を専攻。帰国後クラブDJやラジオ局のディレクター、イベント会社で企画・制作・運営を担当。2016年株式会社オートクチュール入社。翌年の「ルイ・ヴィトン 2018クルーズ・コレクション」を機に20年ぶりに帰郷し京都支社を立ち上げる。現在は京都に軸足を置き製薬、自動車、ハイブランド企業のPR施策の企画に加え、 比叡山延暦寺や醍醐寺など寺社仏閣において伝統文化を活用した企画・PR施策やイベントなどをプロデュースしている。

▼「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」の記事はこちら

企画の原点は「好き」から始まった

— まず、「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展(以下「ゲゲゲの鬼太郎展」)」の企画がどのように始まったのかを教えていただけますか?

今出川 行戒さん(以下、今出川):延暦寺では毎年、様々な行事、イベントなどを開催してきました。その中で特別なイベントを何かひとつ打ち出したいなと考えていたんです。また、いつもは非公開の「大書院」を一度、一般公開したいとずっと思っていました。建造物としては本当に素晴らしいものなのですが、ただ公開するだけでは建築物に興味が無い人からすると、「古い日本家屋やん」で終わってしまう可能性もありました。そこで、普段は見ることができない大書院をただ公開するだけではなく、何かアートの展示をしたいなって思ったんです。

今出川行戒さん(右)と山田晋也さん(左)が座って会話している場面です。二人とも和装をしており、今出川さんは僧侶の装いで、両手を組んで話に耳を傾けています。山田さんは笑顔でリラックスした様子で話しています。背景には木製の椅子とテーブルが並んでいます。
左から 山田 晋也さん、今出川 行戒さん

— 「ゲゲゲの鬼太郎」をテーマにしようとしたのは、どういった経緯だったのでしょうか?

今出川:山田さんの漫画・アニメと伝統絵師のコラボした作品などは、ずっと見させていただいていました。それで、「ゲゲゲの鬼太郎」を展示しようと閃いたんです。「ゲゲゲの鬼太郎」はもともと大好きでしたからね。一番の理由はそれです。私が「ゲゲゲの鬼太郎」が好きだったから(笑)

一同:(笑)

山田晋也さん(以下、山田):その話は今日言うか言うまいか、ずっと迷っていました(笑)。

今出川:今まで鬼太郎は色んな絵師とコラボしてましたよね?

山田:そうですね。

今出川:アートを展示するのであれば、オリジナリティーがあるものを出したい、何か比叡山と関連のあるようなものをやった方がおもしろいなと思いました。そこで村山くんたちに本格的に相談させてもらったのです。こういうことってできる?って。

— 「比叡山の七不思議」というアイデアはどのように生まれたのですか?

今出川:「ゲゲゲの鬼太郎」はお化け、妖怪のお話ですよね。比叡山にも「比叡山の七不思議」というお化け、妖怪の逸話が残っているんです。そこで「鬼太郎たちが比叡山の妖怪たちに会いに来る」というストーリーを考えて、そういう絵ができたら面白いよね、と。それがスタートですね。

比叡山の七不思議
比叡山延暦寺に古くから言い伝えられ、山や信仰を守り、人々を戒めてきた今も語りつがれている七つの伝説。
①総持坊:一つ目小僧 ②南光坊跡:なすび婆 ③船坂:船坂のもや船 ④五智院跡:おとめの水垢離 ⑤にない堂:一文字狸 ⑥龍ヶ池:大蛇 ⑦横川中堂:六道踊り

出典:比叡山延暦寺に古くから言い伝えられてきた七不思議

— 今出川さんが「ゲゲゲの鬼太郎」ファンになったのはいつ頃からなんですか?

今出川:もともと妖怪とか好きだったんですよ。ちっちゃい子供の頃から。水木しげるさんの「妖怪大図鑑」を常に持ち歩いているような子供でした(笑)。

— 「ゲゲゲの鬼太郎展」を開催してみて、内部外部からの反応はどうでしたか?

今出川:反応はすごく良かったです。お寺関係の団体さんからも好評でした。妖怪や漫画であっても「アート」という捉え方をしてくれていました。大人からすると漫画は子供が見るものっていう感じに思われがちですが、素材は漫画であっても、それが大書院の建物とシンヤくんの絵や屏風、そして演出の仕方によって、大人も十分楽しめるものになりました。

山田 晋也さんが考え込むように顎に手を当てている画像です。背景には室内の一部がぼんやりと見えており、壁に掲示されたポスターや棚に置かれた小物が写っていますが、焦点は男性の表情に当てられています。

今出川:開催中は、いつもより子供連れ、家族連れが多かったですね。大人から子供まで年齢問わず、すごい好評でした。海外の方もいつもより多かったです。

山田:鬼太郎のキャラクター、妖怪を知らない海外の方も楽しんでくれていました。それが本当に良かったですね。妖怪に対してすごく興味深そうでした。

自然の演出が功を奏した「大書院」の存在

— 会場であった大書院の建物の雰囲気と薄暗さ、作品と空間、何もかもがマッチしていました。これについて詳しく教えていただけますか?

今出川:最初のセッティングを終えて、いざプレオープンの時に台風が来たんですよ。それで雨戸を全部閉めることにしたんです。暗闇の中、スポットライトを作品に当てて開催することになりましたが、それが結果的に「これすごいええやん…」となりました。

村山 和正さん(以下、村山):そうですね。ムッチャ良かったです。

村山 和正さんが真剣な表情で何かを考えているように見える画像です。伝統的な和装を着ており、背景には緑の植物が飾られた室内の様子が見え、落ち着いた雰囲気が伝わってきます。焦点は村山さんの表情に当てられています。
村山 和正さん

— 偶然にも色々なものがマッチしたんですね。

村山:そうなんですよね。プレオープン後の開催初日は台風で中止するしかなかった。台風が来てなければ、雨戸は全部開けたまま開催していたでしょうね。そしたらあの独特の雰囲気はできていなかった。

「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」の会場内の様子を写した画像です。和風の室内に、幽玄な雰囲気の照明で照らされた展示物が並んでいる画像です。部屋の壁には5つの垂直に配置されたパネルが設置され、それぞれに妖怪や霊的なイメージが描かれたアート作品が飾られています。室内は全体的に暗く、展示物が際立つようにスポットライトが当てられています。天井は木製で、伝統的な日本の建築様式が感じられます。

— 関係者の方に聞いたところによると、村山さんが参加する大きなイベントの時は必ず嵐を呼ぶと有名なそうで…

村山:そう(笑)、でも今回はさすがに、こんなことは初めてだと関係者みんなに言われましたよ(笑)。

今出川:そうなんですよね。でもそれがあったからこそ、晴れてても、雨が降っていても、ずっとあの雰囲気を作り出して開催することができました。

「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」の会場内の様子を写した画像です。伝統的な和室に、掛け軸がスポットライトで照らされて展示されている画像です。掛け軸には細長い植物が描かれており、背景の壁に柔らかな光が広がっています。左側には障子窓があり、その奥には木製の格子と植物が見えます。室内は全体的に暗く、照明によって掛け軸が際立つように演出されています。静かで落ち着いた雰囲気が漂う空間です。

— 展示する側からすると、あの暗い中でどう見せるかが難しくはなかったですか?

村山:最初は大変でしたが、シンヤくんと最初に現場を見た時から、彼の経験から「これはいける」と言っていたので、何の心配もしていませんでした。ただ、ここまで暗くなるとは想定外でしたけど(笑)。作品に照明が当たった感じも、あの暗さがあったからこそ、浮き上がって見えるなんとも言えない雰囲気に出来上がった。それとやっぱりシンヤくんのアイデアと絵がすごかったですね。

山田:照明や色のコントロールはとても重要でした。日本の蛍光灯は明るすぎることがありますが、「ゲゲゲの鬼太郎展」ではその照明のコントロールが上手くいきましたね。これは海外で特にその差を感じます。海外で夜道を歩いていると街灯があっても向こう側の人の顔がはっきりとは見えにくい。今の日本はどこも非常に明るすぎる。

村山:確かにそうだね。「ゲゲゲの鬼太郎展」が始まってから、あれもしたらいいんじゃないか、これもしたらいいんじゃないかってみんなのアイデアが更に出てきた。今出川さんの音を出したら良いじゃないかってアイデアがあったり。それで鐘の音が流れるようにしたりね。開催中も色々考えて、さらに良くなるよう実行していましたね。

「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」の会場内の様子を写した画像です。暗がりの中、壁に取り付けられた二つの展示パネルがスポットライトで照らされ、それぞれに妖怪を描いたイラストが飾られています。右側の展示には屏風に隠れるキャラクターが描かれています。天井や壁のデザインは伝統的な和室の雰囲気を持ち、部屋の一部には円形の装飾も見えます。全体的に静かな雰囲気の中、展示物が際立つように演出されています。

— 運営チームのみなさんにとっても新たな試みでもあり、予想以上のハプニングもあったけど、そこがより良いものを作るチャンスになったということですね。

村山:そうです。今回の展覧会はどこを取っても素晴らしかった。残念な部分がなかったです。アクセスだけは比叡山なので、ちょっと来られる方には遠かったかもしれないですけど(笑)。でも、それだけの価値があったという感想を多くもらえたので、本当に良かったです。

— 本当に美術館とか、ギャラリーでの展示ではちょっと味わえない独特の雰囲気でしたね。

今出川:そのために「比叡山の七不思議」にゆかりのある場所を巡るスタンプラリーもしたんですよ。お化けの伝説の始まったところを実際に訪れて、見てもらえるようにしたいって。

「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」のスタンプラリーに関連する二枚の画像です。左の画像では、スタンプラリーの案内板が展示されており、比叡山の僧侶が描かれています。中央には「僧」の字が刻印されたスタンプが設置されています。右の画像では、スタンプラリーの用紙に実際に「僧」のスタンプが押されており、その隣にスタンプ自体が置かれています。用紙には他のスタンプを押す場所もあり、参加者が各スポットを巡ってスタンプを集める形式であることがわかります。
「ゲゲゲの鬼太郎展」開催中に行われた「比叡山の七不思議」ゆかりの地を巡るスタンプラリー。

— 「ゲゲゲの鬼太郎展」の反響はどうでしたか?

村山:開催期間が短かったのが唯一の悔いですが、それでも来場者からは「もっと長くやってほしかった」という声を多くいただきました。

今出川: 昨年は「伝教大師1200年大遠忌記念」という比叡山の大きな行事が重なっていましたからね。使える場所や期間も限られていました。次回は期間も長く、さらにパワーアップしたイベントをやりたいと考えています。

次回 「ゲゲゲの鬼太郎」に込めた想い

「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」ギャラリーはこちら

ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展

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