鎌倉時代を代表する天才仏師・運慶の傑作を間近で鑑賞できる特別展『運慶展』が、横須賀美術館で開催されています。本展では、運慶作の仏像を含む全9躯の貴重な仏像を展示。鎌倉幕府の中枢を担った三浦一族との結びつきをテーマに、中世日本の芸術と信仰の深い世界を体感できる内容となっています。
運慶展の見どころ
三浦一族と運慶が紡いだ仏教美術の傑作
12~13世紀、三浦半島を拠点とした三浦一族は、鎌倉幕府成立に深く関与した有力な武士階級でした。その地位を象徴するように、横須賀や三浦半島には彼らの信仰を示す寺院が多く建立され、一流の仏師たちによる仏像が安置されました。
その中でも、和田義盛(1147~1213)が運慶に依頼した「阿弥陀三尊像」「不動明王像」「毘沙門天像」(浄楽寺蔵)は、三浦一族の信仰心と武士的価値観を象徴する傑作です。これらの作品は、運慶の写実性と躍動感を持つ彫刻技術が最大限に発揮されたものとして知られています。
また、本展ではこれらの運慶作仏像に加え、義盛の所持と伝わる薬師如来像(三浦市天養院蔵)や、南宋からもたらされた観音菩薩坐像(清雲寺蔵)など、東国武士の祈りを受けとめた全9躯の仏像を一堂に展示します。これらの作品は、地域の宗教的先進性を伝えるとともに、中世仏教文化の重要な一端を担っています。
運慶とは何者か? | 仏像彫刻の天才仏師
運慶(およそ1150年頃〜1223年没)は、鎌倉時代を代表する天才仏師です。その作風は、それまでの理想化された仏像表現を一新し、まるで生きているかのような写実性と圧倒的な存在感を備えています。
運慶は、平安時代から鎌倉時代にかけての動乱期に活躍しました。この時代、奈良・興福寺や東大寺が平家の焼き討ちによって灰燼に帰し、その復興のために運慶のような仏師の技術が求められました。運慶は父・康慶から受け継いだ伝統を基盤に、写実的で力強い表現を取り入れた新しい様式を確立。特に、武士階級の精神性や力強さを体現した彼の仏像は、時代の価値観と見事に調和しました。
代表作として、奈良県の東大寺南大門の「金剛力士像」、同じく奈良県の興福寺に安置されている「無著菩薩立像・世親菩薩立像」などがあります。これらの作品は、圧倒的な写実性と精神的な深みで観る者を引き込み、現在も多くの人々を魅了しています。
運慶が生きた鎌倉時代の文化と背景
鎌倉時代(1185年〜1333年)は、日本初の武家政権が成立し、武士が政治と文化を主導する新しい時代でした。源頼朝(1147年〜1199年)による鎌倉幕府の設立は、武士たちの台頭を象徴し、それまでの貴族中心の文化から「質実剛健な文化」へと移行しました。
この時代の文化は、武士の精神性を反映した力強い仏教美術が中心でした。運慶や快慶ら慶派の仏師たちは、金剛力士像や無著・世親菩薩像といった写実的で生命感あふれる作品を生み出し、武士たちの信仰を支えました。
また、浄土宗や禅宗といった新しい仏教宗派が広まり、武士や庶民の祈りの在り方にも変化をもたらしました。仏教美術の進化は、武士たちが求めた「力強さ」と「精神的支柱」の融合を象徴しています。
鎌倉時代は、政治と文化が大きく転換した時代であり、その精神は運慶の作品にも色濃く反映されています。
三浦一族と和田義盛 | 武士の祈り
(右:菊池容斎によるモノクロームのミニマルなスタイルで描かれた瞑想的な和田義盛像。左:ダイナミックな歌川国芳の浮世絵に描かれた和田義盛。)
三浦一族は、鎌倉幕府の成立を支えた有力な武士一族であり、政治や軍事のみならず、文化や信仰の分野にも多大な影響を及ぼしました。特に和田義盛(1147年~1213年)は、源頼朝の挙兵に参加し、鎌倉幕府の中枢を担った、三浦一族を代表する武将です。源平合戦やその後の幕府内での役割を通じて、義盛は戦士としての勇猛果敢さを発揮しました。
侍は戦士です。戦いに身を投じる者たちは、しばしば死と隣り合わせの生活を送りました。鎌倉時代の侍たちも例外ではなく、源平合戦をはじめ、歴史的な戦場で数多くの命を賭けた戦いを繰り広げました。その戦いぶりは、後の元寇の際にも、モンゴル軍を驚かせるほどの勇猛さとして語り継がれています。
しかし、そんな戦士たちが「祈り」を捧げていたことも、また歴史の一側面です。義盛もまた、仏教への深い信仰心を持ち、仏師・運慶に仏像制作を依頼しています。浄楽寺に安置された阿弥陀三尊像や毘沙門天像、不動明王像は、義盛の信仰心と戦士としての在り方を象徴する遺産です。
命を懸けて戦う侍たちにとって、祈りはどのような意味を持っていたのでしょうか。武勲を誇るため、戦の必勝を願うため、あるいは、家族や一族の無事を祈るためだったのでしょうか。もしかすると、戦いの最中にこそ、平和を求める祈りが生まれていたのかもしれません。明日の命すら分からぬ時代、仏に向き合った義盛の姿を想像すると、その心の内に思いを馳せずにはいられません。
戦士たちの祈り——それは、過去の侍たちだけでなく、今日もなお世界のどこかで捧げられていることでしょう。時代や文化が違っても、祈りに込められた願いは普遍的なものなのかもしれません。
イベント詳細
会期
2024年10月26日(土)~12月22日(日)
開館時間:10:00~18:00
※無料観覧日:11月3日(日・文化の日)
※休館日:11月5日(火)、12月2日(月)
観覧料(税込)
一般:1,000円(団体料金 800円)
高校生・大学生・65歳以上:800円(団体料金 640円)
中学生以下:無料
※高校生(市内在住または在学に限る)は無料
※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方と付添1名様は無料
※1階で開催している企画展の観覧料は別途必要です。「お得なセット券」の詳細は公式サイトをご覧ください。
会場
横須賀美術館 地階 展示室5、6、7
〒239-0813 神奈川県横須賀市鴨居4丁目1番地
主催・共催・協力
主催:横須賀美術館
共催:神奈川県立金沢文庫
特別協力:鎌倉国宝館
協賛:一般財団法人シティサポートよこすか
助成:令和6年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
後援:朝日新聞社
お問い合わせ
横須賀市コールセンター
TEL: 046-822-4000
受付時間:月~金曜日 8:00~18:00 / 土日祝休日 8:00~16:00
展覧会公式サイト:横須賀美術館
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