2025年4月、高知県で開催された「第2回高知アニメクリエイターアワード」。
全国から寄せられた293作品の中から選ばれた受賞作は、若き表現者たちの挑戦と情熱を映し出すものでした。本記事では、グランプリから特別賞まで、注目のアニメーション作品とそのクリエイターたちの声と共に紹介していきます。
Contents
第2回高知アニメクリエイターアワードとは?

地域と業界を結ぶ創造の舞台として注目される「高知アニメクリエイターアワード」。その第2回が2025年4月5日、「高知アニクリ祭2025」の初日に開催されました。主催は高知アニメクリエイター聖地プロジェクト実行委員会。会場にはアニメ業界のプロフェッショナルや自治体関係者、一般ファンが一堂に会し、式典は熱気に包まれました。
今回は全国から293作品の応募があり、一般投票数は3,500件を超えるなど、多くの関心を集めました。
審査員からは「去年以上に審査が難しかった」「すべての作品に情熱と夢が込められていた」などの声が相次ぎ、若手クリエイターたちの技術と表現の進化が強く印象づけられました。応募作品全体の質が底上げされ、個性や構成力が問われる選考となったことがうかがえます。
ジャンル面でも多彩さが際立ちました。『スイーツメイト』のように3Dと2Dを融合させた作品、『カノープス』のように社会的テーマに踏み込んだ作品など、手法と主題の両面で幅広い表現が見られました。こうした多様性は、アニメーションが個人の表現を受け止める媒体として進化していることを示しています。
本アワードは、将来のアニメ業界を担う才能が脚光を浴びる場として、確かな存在感を示し始めています。
グランプリ・準グランプリ受賞作品
グランプリ 『鯨を夢む』/ Shuzuku
『鯨を夢む』Shuzuku
第2回高知アニメクリエイターアワードの頂点に立ったのは、Shuzuku氏による『鯨を夢む』。昨年もノミネート経験を持つShuzuku氏にとって、本作はまさに“リベンジ”の意味を持つ挑戦でした。自身の言葉を借りれば「喜びと安堵と緊張でいっぱい」と語るように、この受賞は本人だけでなく、多くの関係者の想いも背負った結果といえます。

プレゼンターを務めたのは、日本動画協会理事長であり日本アニメーション株式会社の代表取締役社長でもある石川和子氏。彼女は「すべての作品に作り手の思いが詰まっていた。未来のアニメは確実に明るい」と述べ、作品への敬意と期待を表明しました。
準グランプリ『Dancing in the rain』/ 葉昭均
『Dancing in the rain』葉昭均
準グランプリには2作品が選出されました。ひとつは葉昭均氏の『Dancing in the rain』。美しい映像と多文化への眼差しが評価された本作は、鑑賞者に温かな余韻を残します。

葉氏は「苦しい時期もあったが、この作品を通して文化の多様性を伝えたい」と語りました。
準グランプリ『ジョセリン・ラン・デブ』/ ランデブー班
『ジョセリン・ラン・デブ』ランデブー班
もうひとつの準グランプリは、ランデブー班による『ジョセリン・ラン・デブ』。完成度の高さと娯楽性が評価された作品で、プレゼンターの井上伸一郎氏(KADOKAWAアニメ・声優アカデミー名誉アカデミー長)も「非常に完成度が高く、楽しく鑑賞できた」と述べています。

いずれの作品も、表現力とテーマ性、そしてアニメーションならではの語り口で、観る者の記憶に深く残る力を備えていました。
アニ魂賞 受賞作品
アニ魂賞は、高知アニメクリエイターアワードの中でも「表現への情熱」や「テーマの奥行き」に特に焦点を当てた賞として位置づけられています。作品そのものの完成度だけではなく、制作者が向き合った葛藤や社会的視点など、“アニメーションを通して伝える力”が問われる賞です。
今回アニ魂賞を受賞したのは、祇狩神社による『りんご飴のまじない』と、蟻川夢子氏の『カノープス』の2作品です。
『りんご飴のまじない』/ 祇狩神社
『りんご飴のまじない』祇狩神社
『りんご飴のまじない』は、ノスタルジックな風景と繊細な心理描写が特徴の作品。作者は「楽しいことばかりではなかったが、本当に感謝している」と語り、創作の過程で感じた困難と喜びを率直に表現しました。作品には、どこか懐かしくも切ない感情が織り込まれており、観る者の記憶を静かに揺さぶります。
『カノープス』/ 蟻川夢子
『カノープス』蟻川夢子
一方『カノープス』は、「生きづらさ」を抱える子どもたちを描いた作品です。蟻川氏は「このような問題が少しずつでも解消される社会になってほしい」とコメント。物語の中に込められたメッセージ性と、誠実な描写が審査員に強く響いたことが、今回の評価につながりました。
アニ魂賞は、こうした「伝える覚悟」と「作品を通じた社会との対話」に価値を見出す賞として、アワード全体の理念を支える存在でもあります。
オーディエンス賞・審査員特別賞 受賞作品
観客の心をもっとも強くつかんだ作品に贈られる「オーディエンス賞」と、審査員の特別な評価により選出される「審査員特別賞」は、多様な価値観と表現の広がりを象徴する賞です。第2回アワードでは、それぞれの視点から選ばれた作品群が、アニメーションの裾野の広さを物語っていました。
オーディエンス賞・審査員特別賞 『透明標本』/ 夜更かしコア
『透明標本』夜更かしコア
今回、両賞をダブル受賞したのは夜更かしコア氏の『透明標本』です。幻想的かつ構造的な映像と、静かな情緒を重ねた作風が観客にも審査員にも強い印象を残しました。作者は「光栄な賞を二度もいただけて、本当に感謝しています」とコメントし、支えてくれた人々への感謝を述べました。
プレゼンターの近藤真司氏(日本動画協会専務理事)は、「よく考えられた構成で、多くの人の心に刺さった作品」と評価。視覚的な美しさと物語の密度を両立した点が高く評価されました。
審査員特別賞 受賞作品
審査員特別賞には他にも、独創性や技術的挑戦が光る多彩な作品が選ばれました。
『夏の終わり』
小林翔汰
内省的で詩情あふれる短編
『うたたねマフラー「カメとウサギ」』
脇村映像
音楽との融合が印象的な実験的アニメ
『スイーツメイト』
スイーツメイトチーム
3Dと2Dの融合による映像演出が高評価
『wing』
荒谷泰之心
長年描きためたイラストを束ねた個人的な世界
『鮮やかな日々』
影山晴也
緻密な描写と静謐な構成が特徴
『はずしてトラバサミ』
なかむらたけし
2年連続受賞、継続的な創作が評価
『マミ子のウン子』
大野恭照
ユーモラスな題材ながら丁寧な描写で魅せる
『金と銀のナイフ』
平野汐音
意外性と演出力に富んだ短編
『春蕾(Shunrai)』
はるつぼみ
チーム制作での連携力と表現力を発揮
これらの作品は、完成度に加え、クリエイター自身の個性や問いかけが色濃く現れた作品ばかりです。アニメーションという手法の中に、ジャンルを超えた語りの可能性が広がっていることを証明するような受賞結果となりました。
受賞作品とアワードの今後|聖地プロジェクトの展望
今回紹介した受賞作品の多くは、公式ウェブサイト「高知アニメクリエイターアワード」上で公開されています。短編から実験的作品まで、個性あふれるアニメーションの数々を自由に視聴できる環境が整っており、観る者にとっては“次の才能”と出会う貴重な場にもなっています。
【受賞作品一覧ページ】
https://www.anikuri.jp/winners/
本アワードを主催する高知信用金庫は、創業100周年を機に「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」を展開。地域みらい財団との連携のもと、アニメーションを通じた地域振興や人材育成にも注力しています。高知県内の自治体との連携協定も進んでおり、アワードは単なるコンテストにとどまらず、若手クリエイターを社会と結ぶハブとしての役割を果たしつつあります。
さらに、公式SNSやYouTubeチャンネルではイベントの裏側や制作者インタビューなども随時発信。作品を見るだけでなく、その背景や想いに触れられる情報も充実しています。
今後も本アワードが、新たな才能の発掘と、アニメーションという文化の深化に寄与する場として広がっていくことが期待されます。
Flawsome Me 白川恵菜
夏の終わり 小林翔汰
明日の天気は 関根七香
care 津田悠華
推しプリン 松岡
APUKUNAPA KUTIMUYNIN (神々の帰還) VALLEJOS OMAR
はずしてトラバサミ なかむら たけし
マミ子のウン子 大野恭照
うたたねマフラー『カメとウサギ』 脇村映像
スイーツメイト スイーツメイトチーム
ジョセリン・ラン・デブ ランデブー班
透明標本 夜更かしコア
wing 荒谷泰之心
鮮やかな日々 影山晴也
氷づけのエスティ 小箱
鯨を夢む Shuzuku
KAGRA studioJACA
カノープス 蟻川夢子
ファンタスティックベーカリー きしあやこ
「負けたらケライ!」だぞ きのしたがく
ヨシヨシとイーコのUMA発見記 唐川美桜
えんぷてぃ~ポコポコききいっぱつ~ PoCoPoCo Project
金と銀のナイフ 平野汐音
春蕾(Shunrai) はるつぼみ
ソラノワクセイ 「ソラノワクセイ」制作チーム
りんご飴のまじない 祇狩神社
つつじの坂 猫本 玄
Manual Complex 万屋一心
トゥインクル☆ヤニネズミ 狩野翠里
Dancing in the rain 葉昭均
表現者視点で見るアニメアワード|創作の現場から
アニメという表現は、いまや言語や文化を超え、世界中の人々と感情を共有できる「共通言語」となっています。アートやアニメが持つ力、その豊かさと可能性に、私は一人のファンとして、そして表現者として、強く魅了され続けてきました。
本アワードで紹介された多くの作品は、単なる娯楽の枠を超え、視覚と言葉、動きと間によって、人間の内面に触れるような深い表現を実現しています。その力強さと繊細さの両立に、深く心を動かされました。
私自身、インディーアニメや個人制作の創作物を長年愛好し、映像作品の制作に携わった経験もあります。アニメーションが持つ独自の困難さ——時間、技術、チームワーク、表現の緻密さ——それらすべてを乗り越えて形にされる作品には、制作者の強い覚悟と情熱が宿っています。そのことをよく知っているからこそ、受賞作品の一つひとつに深く共感し、尊敬の念を抱かずにはいられません。
こうした作品と出会える場があること、そしてそれが広がり続けていることは、心から歓迎すべきことです。観る者が感動し、創る側へと歩み出す。そんな循環がこのアワードから生まれていく未来を強く願っています。
今回の受賞者、参加者、そしてすべての表現者の方々に、心からの賞賛を送ります。
開催概要:第2回高知アニメクリエイターアワードが2025年4月に開催。全国から293作品が集結し、一般投票は3,500件超。
グランプリ:Shuzuku『鯨を夢む』が頂点に。表現力と挑戦の姿勢が高く評価。
準グランプリ:葉昭均『Dancing in the rain』、ランデブー班『ジョセリン・ラン・デブ』の2作が選出。
アニ魂賞:祇狩神社『りんご飴のまじない』と蟻川夢子『カノープス』が、社会的テーマと情感で受賞。
観客・審査員の支持を集めた作品:『透明標本』(夜更かしコア)がダブル受賞。他にも多様で挑戦的な作品が多数選出。
視聴案内:受賞作品(一部を除く)は公式サイトで無料公開中。