「北斎・英泉 艶くらべ ー歌舞伎町花盛りー」内覧会レポート|北斎と英泉、それぞれの〈艶〉

新宿歌舞伎町能舞台で開催される『北斎・英泉 艶くらべ ー歌舞伎町花盛りー』の会場風景

「北斎・英泉 艶くらべ ー歌舞伎町花盛りー」が、2026年4月4日から新宿歌舞伎町能舞台とBONDで始まる。
葛飾北斎と渓斎英泉の春画を軸に約100点を紹介する本展では、よく知られた図像だけでなく、ふたりの表現の違いや、春画という文化の広がりにも目を向けることができる。内覧会では、会場の特性を生かしながら、作品そのものを丁寧に見せる展示が印象に残った。

歌舞伎町で開かれる、北斎と英泉の春画展

本展の会場は、新宿歌舞伎町能舞台とBONDの2会場構成だ。受付は能舞台に置かれ、前期・後期で展示替えが行われる。《蛸と海女》は4月4日から12日、5月1日から10日の期間限定展示で、18歳未満は入場できない。

歌舞伎町という土地柄もあり、春画という題材が先に強く立つこともあり得る。だが、内覧会で実際に見えてきたのは、刺激の強さを前面に押し出すというより、作品の線や構図、摺りの質、画面の密度へ視線を戻していく展示だった。春画を文化としてどう見せるかという問いが、空間全体に通っているように感じられた。

北斎と英泉、それぞれの〈艶〉

本展の軸になるのは、北斎と英泉の春画を並べて見ることだ。英泉は自著『無名翁随筆』で北斎から影響を受けたことを記しつつ、ふたりの〈艶〉へのまなざしは同じではないと整理されている。

実際に会場を回ると、その違いは技量の優劣というより、人間の捉え方の差として見えてくる。北斎はやはり完成度が高い。背景や衣装の細部、全体構成、摺り物としての画面の強さ。一方で、その完成度の高さゆえに、画面が強く設計されている印象も残った。

渓斎英泉『後取り』/江戸時代後期/大判錦絵

それに対して英泉には、別の引力があった。とくに「後取り」などでは、頬の紅潮や着物の流れ、身体の崩し方に、人の体温や感情の揺れがにじむ。整った理想像というより、欲望のただ中にいる人の気配が前に出てくる。湿度や温もりを感じるような、その生々しさが、北斎とは異なる魅力として残った。

《蛸と海女》を系譜の中で見る

(中央)葛飾北斎 色摺半紙本『喜能会之故真通』下/文化11年(1814)/浦上蒼穹堂蔵

今回の見どころのひとつが、北斎『喜能会之故真通』より《蛸と海女》の特別展示だ。本展では、この作品を単独の有名作として見るだけでなく、その系譜にも目を向ける構成が取られている。

会見では、春画や浮世絵では同じモチーフや題材が複数の絵師によって描き継がれ、そのたびに構図や表現が更新されていく文化があったことにも触れられた。先行する図像があることは、そのまま独自性の不足を意味するわけではない。むしろ「自分ならどう描くか」という競い合いの中で、表現が磨かれてきたという見方だ。

そうした文脈を踏まえて《蛸と海女》を見ると、北斎の発想や画面構成の強さが、より立体的に見えてくる。よく知られた図像であるからこそ、周辺の流れとあわせて見ることに意味があると感じられた。

能舞台で見るという体験

今回の展示で特に印象に残ったのは、能舞台という場の使い方だった。会場構成では「春」の気配も意識されており、華やかさを加えつつも、作品の見え方を損なわない空間に整えられていた。

作品によっては、ひざまずくような姿勢でのぞき込む場面もあった。その身体の置き方も含めて、鑑賞体験が少し変わる。単に絵を見るというより、場の力に導かれながら、画面との距離を取り直していく感覚があった。春画を見る行為が、消費ではなく鑑賞へと自然に寄っていく感触は、この会場ならではだったと思う。

春画を“見る・語る”場としての広がり

会場では、幅広い来場者が作品の前に立ち、足を止め、見比べながら眺めていた。そこにあったのは、絵としての面白さや文化としての厚みに引かれていく空気だった。

春画は江戸時代に「笑い絵」(わらいえ)「わ印」(わじるし)として親しまれ、人々が笑い合いながら囲んで楽しむ文化でもあったとされる。本展もまた、春画を閉じたものとしてではなく、読み解き、見比べ、語り合う対象として現代に開こうとしているように見えた。

歌舞伎町という場所で春画を展示することには、たしかに強い文脈がある。だが今回の内覧会で印象に残ったのは、その文脈に頼り切るのではなく、作品の美しさや可笑しみ、人間の感情の機微へと視線を戻していく展示だったということだ。北斎と英泉の違いを見比べながら、春画そのものの見方も少し更新される。そんな時間になっていた。

葛飾北嵩『合鏡』(あわせかがみ)/文政5年(1822)/中判錦絵

北斎の系譜を受け継ぐ絵師たちの作品も紹介されており、葛飾北嵩『合鏡』もそのひとつとして印象に残った。

「北斎・英泉 艶くらべ ー歌舞伎町花盛りー」は、北斎と英泉の差を見比べる展覧会であると同時に、春画をいまどのように見るかを問い直す場でもある。会期は2026年4月4日から5月31日まで。前期・後期で展示替えがあり、《蛸と海女》は期間限定で展示される。

開催概要

葛飾北斎・渓斎英泉 艶くらべ ー歌舞伎町花盛りー 新宿歌舞伎町春画展WA

会期:2026年4月4日〜5月31日
前期:2026年4月4日〜4月30日
後期:2026年5月1日〜5月31日
※作品保護のため、一部展示替えあり。

会場(2会場での回遊型開催):

1.新宿歌舞伎町能舞台(総合受付)
東京都新宿区歌舞伎町2-9-18 ライオンズプラザ新宿2F

開館時間:11:00〜19:00
夜間開館:毎週金曜・土曜 11:00〜21:00
(最終入場は閉館30分前)
最終日:5月31日のみ17:00閉館

特別展示:葛飾北斎《喜能会之故真通》より《蛸と海女》

特別展示期間:
4月4日〜12日
5月1日〜10日

チケット:日付指定制

料金:
前売券 一般1900円/学生1300円
当日券 一般2200円/学生1500円

備考:
18歳未満入場不可
当日空きがある場合のみ予約なし入場可
障がい者手帳・指定難病受給者証所持者と介添者1名は無料
来館当日に限り2会場間の再入場可

最新情報、チケット予約、展示詳細は公式サイト:https://www.smappa.net/shunga/

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